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己の影を襲う鳥

巻二 七十八
義兄弟を殺したテムジンとハサルを叱る、母ホエルンの言葉より。

「元朝秘史三種」中文出版社
小澤重雄訳「元朝秘史」岩波文庫
  己が影を襲う海青(シンコル、オオタカ)の如く

岩村忍著「元朝秘史」中公新書
  己の影(セウデル)を衝く海青の如く

Ш.Гаадамбa「Монголын нууц товчоо」
  Сүүдрээ довтлох Сүрхий араатан мэт
  自分の影を襲う恐ろしい猛獣のように(日本語訳:管理人)


"自分の影を襲う"とはどういうことなのか、見当もつかないので荒唐無稽な比喩と見なして、深く考えませんでした。しかし、偶然、Youtubeでハヤブサの急降下を見て私の考え違いに気付きました。
 https://www.youtube.com/watch?v=UV2Evw2Gc5M
己の影を襲うという意味をこの動画で理解できました。将に自分の影を襲わんばかりの垂直急降下です。元朝秘史の作者はハヤブサの特徴を正確に描写しています。
漢訳は"襲"ではなく、"衝"となっています。上空から獲物を蹴落とす、ハヤブサの狩りには"衝く"もあてはまります。

升豁児(シンコル)について】
現代ハルハ・モンゴル語でハヤブサはшонхор(ションホル)です。
漢訳の海青ですが、「蒙漢詞典(現代モンゴル語・中国語辞典)」では
 Songqor[ʃɔŋxɔ̆r]〔名〕海青(也叫海东青)
です。ちなみに現代中国語ではハヤブサは鹘・隼・游隼、等です。

名前も似ていますが狩りの様子からも、升豁児(シンコル)はハヤブサを指していると思います。

【補足】
現代ハルハ・モンゴル語にはハヤブサを指す語として、もう一つначинがあります。шонхорとの違いは分かりません。チョウゲンボウ(ハヤブサ科の鳥、ハヤブサよりも一回り小型)はНачин шонхорと呼ばれています。